第1章 / BASICS目安 15分

クラウドとAWSの基本

この章でわかること

  • 「クラウド」とは何か、「借りる」という考え方で説明できる
  • 自社でサーバーを持つ(オンプレミス)場合との違いを、費用・時間・手間の面で言える
  • AWSがどんな会社で、なぜ多くの企業に選ばれているかが分かる

1-1クラウドとは、「コンピューターを借りる」こと

クラウドという言葉は、日常でもよく使われます。写真をスマートフォンの「クラウドに保存する」、書類を「クラウドで共有する」。どれも共通しているのは、データや処理が手元の機械ではなく、どこか別の場所にあるコンピューターで行われているということです。

企業の話に置き換えると、クラウドとは「コンピューターの能力(計算する力、保存する場所、通信の仕組み)を、インターネット越しに必要な分だけ借りて使うこと」です。借りる相手が、Amazon(アマゾン)の子会社であるAWSのようなクラウド事業者です。

いちばん近いたとえは、電気や水道です。自宅に発電所は作りません。電力会社から必要なだけ買って、使った分だけ月末に払います。クラウドはコンピューターの「電気・水道化」だと考えると、この先の話がすっと入ってきます。

ひとこと用語

サーバー:ほかのコンピューターからの依頼を受けて、データを返したり処理をしたりする専用のコンピューターのこと。ホームページを表示する、社内システムを動かす、ファイルを保管する、といった役割を担います。見た目は普通のパソコンに近いですが、24時間動かし続ける前提で作られています。

1-2「買う」から「借りる」へ ── オンプレミスとの違い

クラウドが登場する前、企業はサーバーを買って、自社の建物の中に置いて使っていました。これをオンプレミス(on-premises、「自社の敷地内で」の意味)と呼びます。今でも多くの会社にサーバールームがあるのは、この名残です。

両者の違いを、非エンジニアの目線で表にまとめます。

観点オンプレミス(買う)クラウド(借りる)
初期費用数百万〜数千万円の機器を先に購入原則ゼロ。使い始めてから課金
使えるまでの時間見積・発注・納品・設置で数週間〜数か月数分で使い始められる
能力の増減足りなくなったら買い足す。余っても戻せない必要なときに増やし、不要になったら減らす
保守・故障対応自社(または保守業者)で対応機器の保守はAWS側が担当
会計上の扱い固定資産として計上し、数年かけて減価償却月々の費用(サービス利用料)として処理
月々の支払い電気代・保守料・設置場所の費用使った分の利用料(従量課金)

重要なのは、クラウドが「常に安い」わけではないことです。24時間365日フル稼働させる大きなシステムでは、長期的にはオンプレミスの方が安くなることもあります。クラウドの本当の強みは「必要なときに、必要なだけ、すぐに」使え、やめたいときにやめられる柔軟さにあります。

経理・総務の目線

オンプレミスでは「設備投資(資産計上・減価償却)」だったものが、クラウドでは「毎月の経費」に変わります。一般にCAPEX(資本的支出)からOPEX(運営費)への移行と呼ばれ、キャッシュフローの出方も、予算の立て方も変わります。

一方で、クラウドの費用は使い方次第で毎月変動します。固定費のつもりで予算を組むと、実績とのずれが出やすい点は意識しておくとよいでしょう(第3章・第5章で詳しく扱います)。

1-3AWSとは、どんな会社か

AWS(Amazon Web Services、アマゾン ウェブ サービス)は、通販で知られるAmazonが2006年に始めたクラウドサービスです。もともとはAmazon自身の巨大な通販サイトを支えるために作った仕組みを、外部の企業にも貸し出したのが始まりでした。

現在では、世界のクラウド市場でシェア首位を保ち続けており、おおむね3割前後を占めるとされています(調査会社によって数字は異なります)。提供しているサービスは200種類以上。スタートアップ企業から大企業、官公庁、金融機関まで、幅広い組織が利用しています。

競合としては、Microsoft(マイクロソフト)のAzure(アジュール)、GoogleのGoogle Cloudが「三大クラウド」と呼ばれます。基本的な考え方はどれも同じなので、AWSを理解しておけば他社のサービスも大枠はつかめます。

日本との関わり

AWSは2011年に東京リージョン(東京近郊のデータセンター群)を開設し、2021年には大阪リージョンも本格稼働しました。日本国内にデータを置いたまま使えるため、国内企業や自治体の利用が広がっています。日本法人はアマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社で、2022年2月以降、日本のアカウントに対する契約・請求は原則この日本法人が行っています(第3章で触れます)。

ひとこと用語

データセンター:サーバーを何万台も並べて動かす専用の建物。電源・空調・通信回線・警備が厳重に整えられています。AWSはこれを世界各地に持っていて、利用者はその中の一部を借りている、というイメージです。

1-4どこまで借りるか ── 3つのサービス形態

「クラウドを借りる」といっても、どこまで借りるかにはいくつかの段階があります。会話の中で「イアース」「パース」「サース」という言葉を聞いたことがあるかもしれません。これは借りる範囲の違いを表しています。

IaaS(イアース)

土地と建物の骨組みを借りる

サーバー、保存場所、ネットワークなどの「材料」を借りて、何を載せるかは自分で決める。自由度が高いぶん、設定や管理は自分の仕事。

例:AWSのEC2、S3

PaaS(パース)

内装までできた店舗を借りる

データベースやアプリを動かす土台まで用意されていて、中身(データや業務ロジック)だけ用意すればよい。管理の手間が減る。

例:AWSのRDS、Lambda

SaaS(サース)

完成したサービスを使う

ログインすればすぐ使えるソフトウェア。管理はすべて提供側。私たちが普段使う業務ソフトの多くはこれ。

例:Gmail、Slack、freee など

左に行くほど自由度が高く、右に行くほど手間が少ない。AWSは主にIaaSとPaaSの「材料」と「土台」を提供する事業者です。

この区別が大事なのは、AWSを使う=自動的に全部おまかせ、ではないからです。AWSは材料と土台を貸してくれますが、その上に何を作り、どう設定し、どう守るかは利用者側の責任になります(第4章の「責任共有モデル」で詳しく説明します)。

1-5なぜ多くの企業がAWSに移っているのか

まとめとして、企業がAWSをはじめとするクラウドを選ぶ理由を整理します。

  1. すぐ始められる:機器の調達を待たずに、思い立った日に試せる。新規事業や実験に向いている。
  2. 使った分だけ払う:初期投資がいらず、失敗したときの損失が小さい。
  3. 増減が自由:繁忙期だけ能力を増やし、閑散期に減らせる。年末の通販サイトやキャンペーン時に強い。
  4. 機器の面倒を見なくてよい:ハードウェアの故障対応、電源、空調、物理的な警備はAWS側の仕事。
  5. 世界中に展開できる:海外拠点向けのシステムも、現地にデータセンターを持たずに提供できる。
  6. 新しい技術をすぐ使える:AI、データ分析、IoTなどの最新機能が、追加契約なしで同じ画面から使える。

一方で、「使い方次第で費用が膨らむ」「設定ミスがそのまま事故につながる」「特定の事業者に依存する」といった注意点もあります。これらは第3章以降で順に扱っていきます。

この章のまとめ

  1. クラウドとは、コンピューターの能力をインターネット越しに「必要な分だけ借りる」こと。電気や水道に近い。
  2. 自社で機器を「買う」オンプレミスに対し、クラウドは初期費用ゼロ・即日利用・増減自由。会計上は資産計上から月々の費用へ変わる。
  3. AWSはAmazonが2006年に始めた世界最大手のクラウド事業者。日本には東京・大阪のリージョンがあり、契約・請求は日本法人が担う。
  4. AWSは「材料と土台(IaaS・PaaS)」を貸す事業者。その上で何をどう作り、どう守るかは利用者の責任。