第4章 / SETUP目安 20分

使い始めるために必要なこと

この章でわかること

  • AWSを使い始めるために何を用意するか、アカウントがどういう構造になっているかが分かる
  • 「リージョン」「ルートユーザー」「IAM」「責任共有モデル」など、始めるときに必ず出てくる概念を説明できる
  • 最初にやっておくべき5つの設定と、サポートプランの違いを知っている

4-1用意するもの ── 意外と少ない

AWSのアカウント(利用者登録)を作るのに必要なものは、次の4つだけです。

  1. メールアドレス:アカウントの「名前」になります。個人のアドレスではなく、会社の共有アドレス(例:aws-admin@会社ドメイン)を使うのが鉄則です。担当者が異動・退職してもアカウントが宙に浮かないようにするためです。
  2. クレジットカード:登録時に必須です。法人カードがなければ、担当者の個人カードで登録して後から請求書払いに切り替える、またはパートナー経由で契約する方法があります。
  3. 電話番号:本人確認のためのSMSまたは自動音声通話に使います。
  4. 住所・会社名:請求書に記載される情報です。適格請求書を取得するためにも正確に入力します。

登録自体は10分程度で終わり、その日のうちに使い始められます。この「速さ」がクラウドの利点ですが、裏を返せば社内のルールがないまま、誰でもアカウントを作れてしまうということでもあります(第5章で扱います)。

4-2アカウントの構造 ── 金庫の鍵と、社員証

AWSのアカウントには、2種類の「利用者」がいます。この区別は、セキュリティの基本中の基本です。

ルートユーザー ── 金庫の鍵

アカウントを作ったときのメールアドレスでログインする、すべての権限を持つ最高管理者。契約の解約や支払い方法の変更など、ここでしかできない操作があります。

日常業務では使わない。多要素認証(MFA)を必ず設定し、パスワードは厳重に保管する。

IAMユーザー / IAMロール ── 社員証

日常の操作に使う、必要な権限だけを持った利用者。人ごと、役割ごとに作り、「経理は請求情報の閲覧のみ」「開発者はサーバーの作成まで」のように権限を絞ります。

退職・異動時はその人の社員証だけを無効にすればよい。

会社の金庫の鍵(ルートユーザー)を全員に配る会社はありません。普段は社員証(IAM)で入れる範囲だけで仕事をするのが原則です。

ひとこと用語

MFA(多要素認証):パスワードに加えて、スマートフォンのアプリに表示される6桁の数字などを入力しないとログインできない仕組み。パスワードが漏れても不正ログインを防げます。ルートユーザーには必須、IAMユーザーにも設定するのが推奨です。

最小権限の原則:「その人の仕事に必要な権限だけを与える」という考え方。権限を広く与えておく方が楽ですが、事故や不正の被害が大きくなります。

複数アカウントと一括請求

ある程度の規模になると、「本番用」「開発用」「部署ごと」のように複数のアカウントを分けて使うのが一般的です。AWS Organizationsという無料の機能でこれらをまとめて管理し、請求を1つに統合(一括請求)できます。請求書は1通にまとまりつつ、アカウント別(=部署別・システム別)の内訳も見られるため、コストの部門配賦がしやすくなります。

4-3どこに置くか ── リージョンとアベイラビリティゾーン

AWSは世界各地にデータセンター群を持っていて、利用者はサービスを作るときに「どの地域に置くか」を選びます。この地域の単位をリージョンと呼びます。日本には東京リージョンと大阪リージョンがあります。

リージョン選びは、非エンジニアにも関係する判断です。

  • データの所在地:個人情報や契約上の制約で「データは国内に置くこと」と決まっている場合、東京または大阪を選ぶ必要があります。
  • 料金差:同じサービスでもリージョンによって単価が違います。東京は米国の主要リージョンより1〜2割程度高めです。
  • 応答速度:利用者に近いリージョンほど表示が速くなります。日本の利用者向けなら日本のリージョンが基本です。
  • 災害対策:東京と大阪の両方を使えば、大規模災害時にも業務を続けられる構成が組めます(費用は増えます)。

各リージョンの中はさらに、物理的に離れた複数の建物群(アベイラビリティゾーン、AZ)に分かれています。1つの建物が停電や火災で止まっても、別の建物で動き続けられるようにするためです。「マルチAZ構成」と聞いたら「建物をまたいで二重化している=止まりにくいが費用は約2倍」と理解すれば十分です。

4-4責任共有モデル ── AWSが守る範囲、自社が守る範囲

第1章・第2章で触れた「AWSに置けば自動で安全、ではない」という話を、きちんと整理したものが責任共有モデルです。AWSはこれを「クラウド"の"セキュリティはAWS、クラウド"内の"セキュリティはお客様」と表現しています。

守る範囲具体的には責任
建物・設備データセンターの入退室管理、電源、空調、物理的な破壊からの保護AWS
機器とその土台サーバー機器、ネットワーク機器、仮想化の仕組みの保守・修正AWS
サービスそのものS3やRDSといったサービスが正しく動き続けることAWS
借りたサーバーの中身OSの更新、ウイルス対策、不要な通り道を閉じる設定利用者
データ暗号化するか、誰に見せるか、バックアップを取るか、いつ消すか利用者
権限と認証IAMの設定、MFA、パスワード管理、退職者のアカウント停止利用者
法令・契約の遵守個人情報保護法、業界規制、顧客との契約に沿った使い方利用者

ニュースになる「クラウドからの情報漏えい」の多くは、AWS側の侵害ではなく、利用者がS3の公開設定を誤った、権限を広く与えすぎたといった利用者側の設定ミスです。この表の下半分が、自社の責任範囲だと覚えておいてください。

経理・総務の目線

監査やセキュリティチェックで「クラウドの安全性はどう担保しているか」と聞かれたら、この責任共有モデルで答えると整理しやすくなります。AWS側の範囲については、AWSが取得している第三者認証(ISO 27001、SOC 2など)の報告書を管理画面(AWS Artifact)から入手できます。利用者側の範囲については、自社の設定とルールを示す必要があります。

4-5最初にやっておく5つの設定

アカウントを作ったら、何かを動かす前に、次の5つを済ませておくのが定石です。エンジニアに依頼する立場でも、「この5つは終わっていますか?」と確認できると安心です。

01 ルートユーザーにMFAを設定し、普段使わない

金庫の鍵を厳重に保管する。日常の操作用にIAMユーザーを作って、そちらでログインする。

02 請求アラート(AWS Budgets)を設定する

「月の利用額が○ドルを超えそうになったらメールで知らせる」という予算を作る。2つまでは無料。会社で使うなら、経理の共有アドレスも通知先に加えると、月中に異常に気づける。

03 操作記録(CloudTrail)を有効にする

誰がいつ何をしたかの記録を残す。事故が起きたときの原因調査や、監査対応に必要。基本的な記録は無料。

04 タグ付けのルールを決める

作るものすべてに「部署名」「プロジェクト名」「担当者」のラベル(タグ)を付けるルールを決める。これがないと、後から費用を部門別に分けることができない。

05 使うリージョンを決め、使わないリージョンは閉じる

東京と決めたら、他の地域で勝手にサーバーが立てられないよう制限する。不正利用で海外リージョンに大量のサーバーを立てられる被害を防ぐ。

4-6サポートプラン ── 困ったときに誰に聞くか

AWSのサポートは、プランによって受けられる内容が変わります。請求・アカウントに関する問い合わせは、どのプランでも無料でできます。

プラン月額の目安内容向いている組織
Basic無料請求・アカウントの問い合わせ、公式ドキュメント、コミュニティ個人の学習、お試し
Developer29ドル〜(利用額の3%)技術的な質問をメールで(営業時間内、返答まで最大24時間程度)開発・検証段階
Business100ドル〜(利用額の3〜10%、段階制)24時間365日、電話・チャット対応。障害時は1時間以内に初回返答業務システムを本番で動かす企業
Enterprise15,000ドル〜専任の技術担当者が付く。大規模・ミッションクリティカルな用途大企業、金融機関など

※ 金額は2026年時点の目安です。本番システムを動かすなら Business 以上が一般的で、サポート費用も予算に含めておく必要があります。

4-7自社で直接契約するか、パートナー経由にするか

AWSを使う方法には、AWSと直接契約する方法と、国内のAWSパートナー(リセラー・請求代行会社)を通す方法があります。多くの日本企業は後者を選んでいます。

直接契約パートナー経由
契約相手AWSジャパン国内のパートナー企業
請求AWSの請求書(円建ても可)パートナーの請求書(円建て、国内の商習慣に沿った支払いサイト)
サポートAWSのサポートプランに別途加入日本語の技術サポートがセットになっていることが多い
費用AWSの定価定価から数%割引、または手数料が上乗せ。会社によって異なる
向いている場合社内に詳しい技術者がいる技術者が少ない、円建て・請求書払いを早く整えたい、相談相手がほしい

この章のまとめ

  1. 必要なのはメールアドレス(会社の共有アドレス)、クレジットカード、電話番号、住所。10分で始められるからこそ、社内ルールが要る。
  2. ルートユーザー(金庫の鍵)は普段使わずMFAで守り、日常はIAMユーザー(社員証)で必要最小限の権限だけ使う。
  3. リージョン(置く地域)は、データの所在地・料金・速度・災害対策に関わる。日本には東京と大阪がある。
  4. 責任共有モデル:建物・機器・サービスはAWS、データ・権限・設定・法令遵守は利用者の責任。漏えい事故の多くは利用者側の設定ミス。
  5. 最初の5つの設定(MFA、請求アラート、操作記録、タグ、リージョン制限)を終えてから使い始める。サポートプランと契約形態(直接/パートナー)も予算に影響する。