使い始めるために必要なこと
この章でわかること
- AWSを使い始めるために何を用意するか、アカウントがどういう構造になっているかが分かる
- 「リージョン」「ルートユーザー」「IAM」「責任共有モデル」など、始めるときに必ず出てくる概念を説明できる
- 最初にやっておくべき5つの設定と、サポートプランの違いを知っている
4-1用意するもの ── 意外と少ない
AWSのアカウント(利用者登録)を作るのに必要なものは、次の4つだけです。
- メールアドレス:アカウントの「名前」になります。個人のアドレスではなく、会社の共有アドレス(例:aws-admin@会社ドメイン)を使うのが鉄則です。担当者が異動・退職してもアカウントが宙に浮かないようにするためです。
- クレジットカード:登録時に必須です。法人カードがなければ、担当者の個人カードで登録して後から請求書払いに切り替える、またはパートナー経由で契約する方法があります。
- 電話番号:本人確認のためのSMSまたは自動音声通話に使います。
- 住所・会社名:請求書に記載される情報です。適格請求書を取得するためにも正確に入力します。
登録自体は10分程度で終わり、その日のうちに使い始められます。この「速さ」がクラウドの利点ですが、裏を返せば社内のルールがないまま、誰でもアカウントを作れてしまうということでもあります(第5章で扱います)。
4-2アカウントの構造 ── 金庫の鍵と、社員証
AWSのアカウントには、2種類の「利用者」がいます。この区別は、セキュリティの基本中の基本です。
ルートユーザー ── 金庫の鍵
アカウントを作ったときのメールアドレスでログインする、すべての権限を持つ最高管理者。契約の解約や支払い方法の変更など、ここでしかできない操作があります。
日常業務では使わない。多要素認証(MFA)を必ず設定し、パスワードは厳重に保管する。
IAMユーザー / IAMロール ── 社員証
日常の操作に使う、必要な権限だけを持った利用者。人ごと、役割ごとに作り、「経理は請求情報の閲覧のみ」「開発者はサーバーの作成まで」のように権限を絞ります。
退職・異動時はその人の社員証だけを無効にすればよい。
ひとこと用語
MFA(多要素認証):パスワードに加えて、スマートフォンのアプリに表示される6桁の数字などを入力しないとログインできない仕組み。パスワードが漏れても不正ログインを防げます。ルートユーザーには必須、IAMユーザーにも設定するのが推奨です。
最小権限の原則:「その人の仕事に必要な権限だけを与える」という考え方。権限を広く与えておく方が楽ですが、事故や不正の被害が大きくなります。
複数アカウントと一括請求
ある程度の規模になると、「本番用」「開発用」「部署ごと」のように複数のアカウントを分けて使うのが一般的です。AWS Organizationsという無料の機能でこれらをまとめて管理し、請求を1つに統合(一括請求)できます。請求書は1通にまとまりつつ、アカウント別(=部署別・システム別)の内訳も見られるため、コストの部門配賦がしやすくなります。
4-3どこに置くか ── リージョンとアベイラビリティゾーン
AWSは世界各地にデータセンター群を持っていて、利用者はサービスを作るときに「どの地域に置くか」を選びます。この地域の単位をリージョンと呼びます。日本には東京リージョンと大阪リージョンがあります。
リージョン選びは、非エンジニアにも関係する判断です。
- データの所在地:個人情報や契約上の制約で「データは国内に置くこと」と決まっている場合、東京または大阪を選ぶ必要があります。
- 料金差:同じサービスでもリージョンによって単価が違います。東京は米国の主要リージョンより1〜2割程度高めです。
- 応答速度:利用者に近いリージョンほど表示が速くなります。日本の利用者向けなら日本のリージョンが基本です。
- 災害対策:東京と大阪の両方を使えば、大規模災害時にも業務を続けられる構成が組めます(費用は増えます)。
各リージョンの中はさらに、物理的に離れた複数の建物群(アベイラビリティゾーン、AZ)に分かれています。1つの建物が停電や火災で止まっても、別の建物で動き続けられるようにするためです。「マルチAZ構成」と聞いたら「建物をまたいで二重化している=止まりにくいが費用は約2倍」と理解すれば十分です。
4-4責任共有モデル ── AWSが守る範囲、自社が守る範囲
第1章・第2章で触れた「AWSに置けば自動で安全、ではない」という話を、きちんと整理したものが責任共有モデルです。AWSはこれを「クラウド"の"セキュリティはAWS、クラウド"内の"セキュリティはお客様」と表現しています。
| 守る範囲 | 具体的には | 責任 |
|---|---|---|
| 建物・設備 | データセンターの入退室管理、電源、空調、物理的な破壊からの保護 | AWS |
| 機器とその土台 | サーバー機器、ネットワーク機器、仮想化の仕組みの保守・修正 | AWS |
| サービスそのもの | S3やRDSといったサービスが正しく動き続けること | AWS |
| 借りたサーバーの中身 | OSの更新、ウイルス対策、不要な通り道を閉じる設定 | 利用者 |
| データ | 暗号化するか、誰に見せるか、バックアップを取るか、いつ消すか | 利用者 |
| 権限と認証 | IAMの設定、MFA、パスワード管理、退職者のアカウント停止 | 利用者 |
| 法令・契約の遵守 | 個人情報保護法、業界規制、顧客との契約に沿った使い方 | 利用者 |
ニュースになる「クラウドからの情報漏えい」の多くは、AWS側の侵害ではなく、利用者がS3の公開設定を誤った、権限を広く与えすぎたといった利用者側の設定ミスです。この表の下半分が、自社の責任範囲だと覚えておいてください。
経理・総務の目線
監査やセキュリティチェックで「クラウドの安全性はどう担保しているか」と聞かれたら、この責任共有モデルで答えると整理しやすくなります。AWS側の範囲については、AWSが取得している第三者認証(ISO 27001、SOC 2など)の報告書を管理画面(AWS Artifact)から入手できます。利用者側の範囲については、自社の設定とルールを示す必要があります。
4-5最初にやっておく5つの設定
アカウントを作ったら、何かを動かす前に、次の5つを済ませておくのが定石です。エンジニアに依頼する立場でも、「この5つは終わっていますか?」と確認できると安心です。
01 ルートユーザーにMFAを設定し、普段使わない
金庫の鍵を厳重に保管する。日常の操作用にIAMユーザーを作って、そちらでログインする。
02 請求アラート(AWS Budgets)を設定する
「月の利用額が○ドルを超えそうになったらメールで知らせる」という予算を作る。2つまでは無料。会社で使うなら、経理の共有アドレスも通知先に加えると、月中に異常に気づける。
03 操作記録(CloudTrail)を有効にする
誰がいつ何をしたかの記録を残す。事故が起きたときの原因調査や、監査対応に必要。基本的な記録は無料。
04 タグ付けのルールを決める
作るものすべてに「部署名」「プロジェクト名」「担当者」のラベル(タグ)を付けるルールを決める。これがないと、後から費用を部門別に分けることができない。
05 使うリージョンを決め、使わないリージョンは閉じる
東京と決めたら、他の地域で勝手にサーバーが立てられないよう制限する。不正利用で海外リージョンに大量のサーバーを立てられる被害を防ぐ。
4-6サポートプラン ── 困ったときに誰に聞くか
AWSのサポートは、プランによって受けられる内容が変わります。請求・アカウントに関する問い合わせは、どのプランでも無料でできます。
| プラン | 月額の目安 | 内容 | 向いている組織 |
|---|---|---|---|
| Basic | 無料 | 請求・アカウントの問い合わせ、公式ドキュメント、コミュニティ | 個人の学習、お試し |
| Developer | 29ドル〜(利用額の3%) | 技術的な質問をメールで(営業時間内、返答まで最大24時間程度) | 開発・検証段階 |
| Business | 100ドル〜(利用額の3〜10%、段階制) | 24時間365日、電話・チャット対応。障害時は1時間以内に初回返答 | 業務システムを本番で動かす企業 |
| Enterprise | 15,000ドル〜 | 専任の技術担当者が付く。大規模・ミッションクリティカルな用途 | 大企業、金融機関など |
※ 金額は2026年時点の目安です。本番システムを動かすなら Business 以上が一般的で、サポート費用も予算に含めておく必要があります。
4-7自社で直接契約するか、パートナー経由にするか
AWSを使う方法には、AWSと直接契約する方法と、国内のAWSパートナー(リセラー・請求代行会社)を通す方法があります。多くの日本企業は後者を選んでいます。
| 直接契約 | パートナー経由 | |
|---|---|---|
| 契約相手 | AWSジャパン | 国内のパートナー企業 |
| 請求 | AWSの請求書(円建ても可) | パートナーの請求書(円建て、国内の商習慣に沿った支払いサイト) |
| サポート | AWSのサポートプランに別途加入 | 日本語の技術サポートがセットになっていることが多い |
| 費用 | AWSの定価 | 定価から数%割引、または手数料が上乗せ。会社によって異なる |
| 向いている場合 | 社内に詳しい技術者がいる | 技術者が少ない、円建て・請求書払いを早く整えたい、相談相手がほしい |
この章のまとめ
- 必要なのはメールアドレス(会社の共有アドレス)、クレジットカード、電話番号、住所。10分で始められるからこそ、社内ルールが要る。
- ルートユーザー(金庫の鍵)は普段使わずMFAで守り、日常はIAMユーザー(社員証)で必要最小限の権限だけ使う。
- リージョン(置く地域)は、データの所在地・料金・速度・災害対策に関わる。日本には東京と大阪がある。
- 責任共有モデル:建物・機器・サービスはAWS、データ・権限・設定・法令遵守は利用者の責任。漏えい事故の多くは利用者側の設定ミス。
- 最初の5つの設定(MFA、請求アラート、操作記録、タグ、リージョン制限)を終えてから使い始める。サポートプランと契約形態(直接/パートナー)も予算に影響する。