第5章 / AT WORK目安 15分

会社で使うときに知っておくこと

この章でわかること

  • 会社としてAWSを使うときに決めておくべきルール(誰が・どう承認し・どう費用を管理するか)が分かる
  • エンジニアとの会話で、非エンジニアが確認すべき質問を10個持っている
  • 稟議書や社内説明で使える「AWS導入の説明の型」を知っている

5-1「個人で使える手軽さ」が、会社では落とし穴になる

ここまで見てきたとおり、AWSは個人のクレジットカード1枚で、10分あれば使い始められます。この手軽さは大きな利点ですが、会社で使うとなると次のような問題を生みます。

  • 部署ごとに別々のアカウントが作られ、会社として全部でいくら使っているか誰も分からない
  • 担当者の個人カードで払っていて、退職後も請求が続く/アカウントに誰も入れなくなる
  • 検証で立てたサーバーが放置され、毎月数万円が黙って流れ続ける
  • 権限の棚卸しがされておらず、退職者のIDがまだ生きている

こうした事態を防ぐのは技術ではなく、ルールと運用です。そしてルールと運用は、経理・総務・情報システム部門が主役になれる領域です。

5-2決めておきたい社内ルール

決めること決め方の例
アカウントは誰が作るか情報システム部門(または指定の管理者)だけが作る。部署が勝手に作らない。Organizationsで一元管理する。
登録メールアドレス個人ではなく、会社の共有アドレスを使う。
支払い方法法人カード、請求書払い、またはパートナー経由に統一する。個人カードは禁止。
利用開始の承認新しいシステムや検証環境を作るときは、目的・月額見込み・期間・担当者を記載した簡単な申請を出す。
タグ付けルールすべてのリソースに「部署」「プロジェクト」「環境(本番/検証)」「担当者」のタグを必須にする。
予算と通知先アカウントまたはプロジェクトごとに月額予算を設定し、超過見込みの通知を担当者と経理の両方に送る。
定期的な棚卸し四半期ごとに「使っていないサーバー・データ」「不要な権限・退職者のID」を確認する。
検証環境の期限検証用に作ったものは原則○か月で削除。延長するなら再申請。

5-3予算管理の実務 ── 3つの道具

AWSには、費用を管理するための無料の道具がそろっています。設定はエンジニアに頼むとしても、「何を見ればよいか」は非エンジニアも知っておきたいところです。

AWS Budgets

予算を決めて、超えそうなら知らせる

「月○ドル」の予算を作り、実績または予測が50%・80%・100%に達したらメール通知。経理の共有アドレスを通知先に入れておくと、月中に異変に気づける。

Cost Explorer

どこにいくらかかったかを見る

サービス別・アカウント別・タグ別に、日次・月次の費用をグラフで確認。「先月より増えたのはどのサービスか」が一目で分かる。

コスト配分タグ

部門別・プロジェクト別に分ける

第4章で決めたタグを「コスト配分タグ」として有効にすると、請求データを部署別に集計できる。社内の費用付け替えの根拠資料になる。

経理・総務の目線 ── 毎月のチェックリスト

1. 月初に請求書(適格請求書)を管理画面から取得し、発行元・税額・通貨を確認する
2. Cost Explorerで、前月比で大きく増えたサービスがないかを見る(上位5項目)
3. タグ別の内訳で、部署ごとの費用を把握し、配賦の根拠として保存する
4. Marketplaceなど他社製品の請求が混ざっていれば、科目を分ける
5. 為替レート(請求書に記載)と、予算策定時の想定レートとの差を記録する

5-4セキュリティとガバナンスで押さえること

第4章の責任共有モデルで見たとおり、データ・権限・設定は自社の責任です。非エンジニアの立場で特に意識したいのは、次の3つです。

  1. 権限の棚卸し:誰がどのアカウントに、どの権限で入れるかの一覧が存在するか。退職・異動時に即日停止する手順があるか。これは人事・総務と連動する業務です。
  2. 公開設定の確認:S3に置いたファイルが「全世界に公開」になっていないか。AWSには誤公開を防ぐ設定(パブリックアクセスブロック)があり、原則オンにします。
  3. 操作記録の保全:CloudTrailの記録が有効で、一定期間保存されているか。監査で「いつ誰が何をしたか」を示す証拠になります。

また、個人情報や機密情報をAWSに置く場合は、社内の情報管理規程や、顧客との契約(データの保管場所・再委託に関する条項)に抵触しないかを事前に確認する必要があります。「クラウドに置くこと自体が再委託にあたるのか」は、業界や契約によって扱いが異なるため、法務と相談しておくと安心です。

5-5エンジニアに聞いてよい、10の質問

AWSの導入や運用について、非エンジニアが会話に加わるときに役立つ質問をまとめました。「分からないから任せる」ではなく、お金・リスク・継続性に関わる部分は、分からなくても聞いてよいのです。答えが返ってこない質問こそ、確認が必要なところです。

質問何を確認しているか
1. 月額はいくらの見込みですか? その前提(稼働時間、データ量)は?見積もりの前提が妥当か。24時間稼働か日中だけかで3倍違う。
2. どのリージョンに置きますか? データは国内に留まりますか?データ所在地の制約、契約・法令への適合。
3. 使わないときは止められますか? 止めたら料金は止まりますか?検証環境・開発環境の費用削減余地。
4. 予算超過の通知は、誰に届くようになっていますか?Budgetsの設定有無と通知先。経理を加えてもらう。
5. 1年・3年の予約割引は使いますか? 前払いは発生しますか?会計処理(前払費用)と資金繰りへの影響。
6. 管理者(ルートユーザー)のMFAは設定済みですか? 誰が管理していますか?最重要アカウントの保護と、属人化の有無。
7. 担当者が異動・退職したら、誰が引き継ぎますか?アカウントとノウハウの継続性。
8. バックアップは取っていますか? 消えたら戻せますか?データ保護はAWSではなく自社の責任。
9. 費用を部署別・プロジェクト別に分けられますか?タグ付けルールの有無。配賦の根拠。
10. この構成をやめるとき、データはどうやって取り出しますか?特定の事業者への依存(ロックイン)への備え。

5-6稟議・社内説明で使える「説明の型」

AWS導入の稟議や、経営層への説明では、技術の詳細ではなく「何を・なぜ・いくらで・どんなリスクがあり・どう備えるか」を順に書くと伝わります。

① 何を

どの業務・システムを、AWS上で動かすのか。利用者は誰で、何人か。

② なぜAWSで

自社で機器を買う場合との比較(初期費用、期間、拡張性、保守の手間)。既存のクラウド利用との整合。

③ いくらで

月額見込み(ドル建て × 想定レート)、年額、前提条件。初期の構築費用は別途。サポートプランやパートナー手数料も含める。想定レートが○円動くと年額が○円変わる、という感応度を添える。

④ リスクと対策

費用超過(→予算通知・定期棚卸し)、設定ミスによる漏えい(→責任共有モデルに基づく設定とルール)、属人化(→共有アドレス・権限の文書化)、事業者依存(→データの取り出し手順)。

⑤ 体制

誰が管理者で、誰が費用を見て、誰が承認するか。社内ルールへの位置づけ。

5-7もう一歩学びたい人へ ── 資格と公式教材

AWSには、非エンジニア向けの入門資格としてAWS Certified Cloud Practitioner(クラウドプラクティショナー)があります。クラウドの概念、主要サービス、料金とサポート、セキュリティの基本を問う試験で、営業・経理・経営企画の方の受験も多い資格です。本サイトの内容は、この試験の出題範囲とかなり重なっています。

学習教材としては、AWS公式の無料学習サイトAWS Skill Builderに日本語の入門コースがあります。また、AWSの公式ドキュメントや料金ページは日本語化されており、本サイトで概要をつかんだ後なら、読み進められるはずです。

この章のまとめ

  1. 手軽に始められるからこそ、「誰が作るか・どう払うか・どう承認するか・いつ棚卸しするか」のルールが要る。これは非エンジニアが主役になれる領域。
  2. 予算管理はAWS Budgets(通知)、Cost Explorer(分析)、コスト配分タグ(部門別)の3つの道具で。通知先に経理を加える。
  3. 権限の棚卸し、公開設定の確認、操作記録の保全は自社の責任。情報管理規程や顧客契約との整合も事前に確認する。
  4. お金・リスク・継続性に関わる質問は、技術が分からなくても聞いてよい。「説明の型」で稟議に落とし込む。