AWSでできること
この章でわかること
- AWSの200以上あるサービスを「4つのかたまり」で大づかみに分類できる
- 会話や請求書に出てくる代表的なサービス名(EC2、S3、RDS、Lambdaなど)が何をするものか分かる
- 身近な業務の例で、どのサービスをどう組み合わせて使うのかイメージできる
2-1全体像 ── まず「4つのかたまり」で考える
AWSのサービスは200種類以上あり、名前も「EC2」「S3」「RDS」と記号のようで、最初はとても覚えられる気がしません。しかし、安心してください。全部を覚える必要はありません。コンピューターがやることは、突き詰めると次の4つしかないからです。
① 計算する
プログラムを動かし、処理をする。いわば「頭脳」。
EC2 / Lambda / ECS
② 保存する
ファイルやデータを置いておく。いわば「倉庫」。
S3 / EBS / Glacier
③ 整理して取り出す
大量のデータを整理し、素早く探し出す。「台帳」。
RDS / Aurora / DynamoDB
④ つなぐ・守る
外部と安全につなぎ、誰が何をできるか決める。「門と鍵」。
VPC / IAM / CloudFront
これに加えて、「運用を楽にする」「データを分析する」「AIを使う」といった補助的なサービス群があります。本章では、会話や請求書に特によく登場するものに絞って紹介します。
2-2計算する ── EC2とLambda
EC2(イーシーツー):仮想サーバーを時間貸しで借りる
Amazon EC2は、AWSの中でもっとも基本的で、もっとも歴史の長いサービスです。一言でいえば「インターネット越しに借りられるサーバー」。性能(頭脳の速さ、メモリの量)を何段階もの「サイズ」から選び、使った時間に応じて料金を払います。
レンタカーに似ています。軽自動車から大型トラックまで車種(=サイズ)があり、借りている時間だけ料金がかかります。使わないときに返却(=停止)すれば、基本料金はほぼかかりません。逆に、借りっぱなしで駐車場に置いておくと料金は発生し続けます。「止め忘れ」がAWSの費用超過の典型的な原因になるのはこのためです。
EC2の名前は「Elastic Compute Cloud」の略で、Cが2つあるので「EC2」。Elastic(伸び縮みする)という単語が、AWSのサービス名にはよく出てきます。「必要に応じて大きさを変えられる」という意味です。
Lambda(ラムダ):サーバーを借りずに「処理だけ」頼む
AWS Lambdaは、サーバーを借りる代わりに、「この処理をしてほしい」というプログラムだけを預けておくサービスです。誰かがファイルをアップロードした、決まった時刻になった、といった「きっかけ」があったときだけ動き、動いた回数と時間に対して料金がかかります。
EC2が「月極の駐車場で車を借りる」なら、Lambdaは「タクシーを呼ぶ」です。待機時間には1円もかからず、乗った分だけ払う。このような、利用者がサーバーの存在を意識しなくてよい仕組みをサーバーレスと呼びます。
ひとこと用語
コンテナ(ECS / Fargate):アプリとその動作環境を「箱」にまとめて、どこでも同じように動かせる技術。引っ越しのたびに家具を組み立て直さなくて済むコンテナ輸送に由来します。AWSではECSやFargateといったサービス名で登場します。会話で聞いたら「アプリを動かす仕組みの一種」と理解しておけば十分です。
2-3保存する ── S3とEBS
S3(エススリー):容量無制限の、とても丈夫な倉庫
Amazon S3(Simple Storage Service、Sが3つ)は、ファイルを置いておくための倉庫です。写真、動画、PDF、バックアップデータ、ログなど、どんなファイルでも入れられ、容量に上限がありません。料金は「置いているデータの量(GB単位)」と「出し入れの回数・量」で決まります。
S3の特長は、その丈夫さです。預けたデータは自動的に複数の建物に複製され、「イレブンナイン」と呼ばれる99.999999999%の耐久性が設計上の目標とされています。1,000万個のファイルを預けて、1万年に1個失われるかどうか、という水準です。
多くの企業で、S3は「ホームページの画像置き場」「システムのバックアップ先」「他部署から集めたデータの集約場所」として使われています。請求書に「S3」とあれば、「データの保管料と出し入れの手数料だな」と読めます。
EBS(イービーエス)とGlacier(グレイシャー)
EBSは、EC2(サーバー)に直接つなぐ記憶装置、つまりサーバーの「ハードディスク」です。EC2を使うと、ほぼ必ずセットで登場します。S3 Glacierは、めったに取り出さないデータを格安で長期保管するための「書庫」です。取り出しに数分〜数時間かかる代わりに、保管料はS3の数分の一です。法律で保存が義務づけられた帳簿の長期保管などに使われます。
経理・総務の目線
保存料は「置いている量 × 日数」で日割り的に積み上がるため、消さない限り毎月じわじわ増えます。古いバックアップやログが放置されていないか、年に一度は棚卸しをするとよいでしょう。使用頻度の低いデータをGlacierのような安い保管区分に自動で移す設定(ライフサイクルルール)も用意されています。
2-4整理して取り出す ── データベース(RDS・DynamoDB)
ファイルを倉庫に放り込むだけでは、「先月の売上を顧客別に集計する」といった処理はできません。データを表の形で整理し、条件を指定して素早く取り出す仕組みがデータベースです。Excelの表を、何億行でも扱えて、何人が同時に書き込んでも壊れないようにしたもの、と考えてください。
RDS(アールディーエス):管理をおまかせできるデータベース
Amazon RDS(Relational Database Service)は、MySQL、PostgreSQL、Oracle、SQL Serverなど、世の中で広く使われているデータベースソフトを、面倒な部分(インストール、バックアップ、更新、故障時の切り替え)をAWSにまかせて使えるサービスです。「データベースの専任管理者を雇わなくて済む」のが最大の価値です。
AWS独自に性能を高めたAurora(オーロラ)というデータベースもあり、RDSの仲間として扱われます。会計システムや販売管理システムの裏側では、こうしたデータベースが動いています。
DynamoDB(ダイナモディービー):表ではなく「キーと値」で高速に
DynamoDBは、「商品ID → 商品情報」のように、キーを指定して値を取り出す形に特化したデータベースです。複雑な集計は苦手ですが、何百万人が同時にアクセスしても一定の速さで応答できるため、スマホアプリやゲームの裏側でよく使われます。
2-5つなぐ・守る ── VPC、IAM、CloudFront
VPC(ブイピーシー):AWSの中に作る「自社専用の区画」
Amazon VPC(Virtual Private Cloud)は、AWSという巨大なビルの中に、自社専用の区画を作る仕組みです。この区画の中にEC2やRDSを置き、「どの部屋はインターネットから入れる」「この部屋は社内からしか入れない」といった通路の設計をします。設計はエンジニアの仕事ですが、「VPCの設定ミス=社内にしか見せないはずのものが外から見える」という事故につながるため、名前だけは知っておきたいサービスです。
IAM(アイアム):誰が、何を、できるか
AWS IAM(Identity and Access Management)は、AWSの利用者ごとに「できること」を細かく決める仕組みです。「経理担当者は請求情報だけ見られる」「開発者はサーバーを作れるが削除はできない」といった権限を設定します。会社でいう「権限規程」と「鍵の管理台帳」をあわせたものです。IAM自体は無料で、第4章で詳しく扱います。
CloudFront(クラウドフロント)とRoute 53(ルートフィフティースリー)
CloudFrontは、ホームページの画像や動画を世界中の拠点にコピーしておき、利用者にいちばん近い場所から届ける「配送拠点網」です。表示が速くなり、本体のサーバーの負担も減ります。Route 53は、「www.example.co.jp」という人間向けの住所を、コンピューター向けの番号に変換する「住所案内所」の役割です。どちらも、Webサイトを運営していれば請求書によく登場します。
2-6そのほか知っておきたい補助サービス
| サービス名 | 一言でいうと | どんなときに登場するか |
|---|---|---|
| CloudWatch | 監視カメラとメーター | サーバーの稼働状況や費用の推移を見る。異常があれば通知する。 |
| CloudTrail | 操作の記録簿 | 誰がいつ何の操作をしたかを残す。監査や事故調査で使う。 |
| AWS Budgets / Cost Explorer | 予算管理と費用分析 | 予算超過の警告、サービス別・部門別の費用内訳の確認。 |
| QuickSight | グラフ・ダッシュボード作成 | データを可視化して経営層に報告する。BIツールと呼ばれる分野。 |
| Amazon Bedrock | 生成AIの窓口 | ClaudeなどのAIモデルを、自社システムから安全に呼び出す。 |
| Amazon Connect | クラウド型コールセンター | 電話の受付・振り分け・録音をクラウドで行う。 |
| AWS Marketplace | ソフトのオンライン商店 | 他社製ソフトをAWSの請求にまとめて購入する。請求通貨に注意(第3章)。 |
2-7組み合わせの実例 ── 3つの身近なケース
サービスは単体ではなく、組み合わせて使います。業務でよくある3つの例を見てみましょう。
ケース1:会社のホームページを公開する
使うもの:S3(ページのファイルを置く)+ CloudFront(速く配信)+ Route 53(住所)
ポイント:サーバー(EC2)を立てずにS3だけで公開できるため、小規模なら月数百円程度に収まることも多い。
ケース2:社内の業務システム(販売管理など)を動かす
使うもの:VPC(社内専用の区画)+ EC2(アプリを動かす)+ RDS(データを保管)+ IAM(権限)+ CloudWatch(監視)
ポイント:いちばん一般的な構成。費用の大半はEC2とRDSの稼働時間。夜間・休日に止められる仕組みなら費用を大きく減らせる。
ケース3:各部署から集めた売上データを分析する
使うもの:S3(データの集約場所)+ Lambda(受け取ったら自動で整形)+ Athena や Redshift(集計)+ QuickSight(グラフ化)
ポイント:サーバーを常時動かさず、データが届いたときだけ処理が動くため、使った分だけの費用で済む。
2-8よくある誤解
- 「AWS=サーバーを借りるサービス」? ── それはEC2の話で、AWSの一部にすぎません。むしろ最近は、サーバーを意識しないサービス(S3、Lambda、各種マネージドサービス)の比重が増えています。
- 「AWSに置けば自動で安全」? ── 建物と設備の安全はAWSが守りますが、データの公開設定や権限の管理は利用者の責任です。設定ミスによる情報漏えいは、AWS側ではなく利用者側の問題として扱われます。
- 「AWSに移せば必ず安くなる」? ── 使い方次第です。止め忘れ、過剰なサイズ、放置されたデータがあると、オンプレミスより高くつくこともあります。
この章のまとめ
- AWSのサービスは「計算する・保存する・整理して取り出す・つなぐ守る」の4つのかたまりで考えると整理できる。
- EC2は時間貸しの仮想サーバー、Lambdaは処理だけを頼むサーバーレス。S3は容量無制限で丈夫な倉庫、RDSは管理をまかせられるデータベース。
- VPCは自社専用の区画、IAMは権限管理。設定ミスが事故に直結するため、名前と役割は知っておく。
- サービスは組み合わせて使う。費用の大半は「動かし続けているもの(EC2・RDS)」と「置き続けているデータ(S3・EBS)」から生まれる。